七尾市郵便局におけるオンライン診療実証実験 視察報告書

1. 視察の背景

石川県能登地域は、全国と比較して医療機関や医師の数が少なく、地域医療の確保が大きな課題となっております。

能登中部における診療所数は人口10万人あたり52施設であり、全国平均の72施設と比べて少ない状況です。特に能登北部ではさらに少なく、地域住民が日常的に医療機関へアクセスすることが困難となっています。

加えて、2024年1月1日に発生した能登半島地震により、もともと限られていた民間医療機関はさらに減少しました。和島市、穴水町、珠洲市、能登町などでも、医療機関の被害が深刻であり、地域医療の脆弱性が浮き彫りとなりました。

こうした状況の中、郵便局を活用したオンライン診療の実証実験が2023年11月より七尾市で開始されました。

本視察(2024年9月)は、その取り組みを現地で確認し、へき地医療および災害医療における新しい可能性を学ぶことを目的としています。


2. 実証実験の概要

実施主体

  • 七尾市南大呑郵便局
  • ねがみみらいクリニック(根上昌子先生)
  • 日本医師会・日本郵便・総務省

実施経緯

南大呑地区は七尾市の市街地から車で20分ほどの距離に位置し、地域人口は681人(324世帯)、高齢化率は54%に達しています。周辺には病院・診療所・薬局が存在せず、医療アクセスが大きな課題となっていました。

このような状況の中、南大呑郵便局長が地域の医療空白を解消できないかと考え、医師会関係者に相談したことが契機となりました。これが日本医師会を経由して総務省に伝わり、日本郵便との連携による全国初の実証実験が始まりました。

実施方法

  • 郵便局内に**テレキューブ(防音個室ブース)**を設置し、オンライン診療専用スペースとしました。
  • 局員が患者の予約や案内、会計をサポートしました。
  • 提携薬局がオンライン服薬指導を行い、処方薬は患者宅に配送されました。
  • 受診対象は安定した慢性疾患を持つ患者に限定されました。
  • 制度上は「移動診療」の届出を行い、法的に対応しました。

3. 災害時における活用

実証実験は2023年11月から開始されましたが、2024年1月1日に能登半島地震が発生し、一時中断を余儀なくされました。
しかし、1月5日にはオンライン診療が再開され、震災後の医療復旧の速さが図らずも実証されました。

また、本実証実験とは別ではありますが、避難所にNTTがタブレットを配布し、ビデオトークを活用したオンライン診療も行われました。避難所内にテレキューブを設置し診療スペースとすることで、発災直後から診療を継続できた事例が報告されています。これらの取り組みは、防災医療におけるオンライン診療の有効性を示すものとなりました。


4. 視察で確認した設備と現地状況

テレキューブの仕様

  • 大型のブースで、内部にはベンチシート・椅子・テーブルを設置
  • カーテンによりプライバシーを確保できる設計
  • 構造は非常に堅牢で重量も大きく、人力で動かすことは困難
  • 地震時にはコンセントが抜けてしまい、本体を動かせず復旧に苦労した事例が共有されました

七尾市の状況

  • 市街地を歩くだけでも震災被害の爪痕が明確に見られました
    • 道路の隆起・亀裂
    • 倒壊・傾斜した家屋
    • ベニヤ板で補修された商店や住宅
  • 一部診療所は駐車場や入口に段差が生じ、利用困難な状況
  • 市街地では仮設のプレハブ商店街が設けられ、早期再開が試みられていました

5. 関係者との意見交換

  • 七尾市医師会の先生方、根上先生と懇談し、災害後も医療を届けることの重要性を強く共有できました。
  • 南大呑郵便局長は地域に深く根ざした存在であり、地域医療の維持に強い使命感を持たれていました。
  • 実証実験の成立には、郵便局長の深い理解と多大な協力が不可欠であり、現地で改めてその重要性を実感しました。
  • 医療従事者と郵便局員の「顔の見える関係」と相互の信頼がなければ、患者支援も十分に機能しないという点が強調されました。

6. 郵便局の役割と可能性

  1. 地域医療のハブ
    • 医療機関のない地域における診療拠点として機能
  2. 全国ネットワークの活用
    • 最も身近な公共施設として、全国的に展開可能
  3. 高齢者のサポート
    • デジタル機器操作を郵便局員が代行し、患者負担を軽減
  4. 医療アクセス格差の是正
    • 都市部と地方の医療格差を緩和
  5. 個人情報の取扱い基盤
    • 郵便局は元来、個人情報の管理に長けており、医療分野との親和性がある
  6. 防災拠点としての強靭性
    • 郵便局建物は災害に強い構造であり、医療継続の拠点となりうる

7. 視察を通じた学びと所感

今回の視察を通じ、郵便局を活用したオンライン診療は、へき地医療と災害医療に共通する新しい解決策であると強く感じました。

  • 地域医療を維持するためにはオンライン診療の活用は不可欠であること
  • しかし万能ではなく、その限界と適応を正しく理解した上で導入すべきであること
  • 成功には制度的な裏付けと、郵便局員・医療従事者の信頼関係が不可欠であること

以上の点を確認いたしました。今後はこうした取り組みを各地に展開し、持続可能な地域医療の仕組みを構築することが期待されます。

おまけ

後日根上先生、七尾市医師会の円山先生が、わざわざときのクリニックまで遊びにおいでくださいました。