山梨市立牧丘病院 医療MaaS車「メディくる」視察
2025年9月、山梨市立牧丘病院の古屋聡先生のもとを訪問し、同市が積極的に取り組んでいる「移動診療車(医療MaaS車両)」の運用状況を視察してきました。
高齢化が進む地域の最前線を支える
山梨市と甲州市を合わせた約6万人の医療圏では、高齢化が急速に進んでおり、地域医療の維持が大きな課題となっています。
この地域の医療を最前線で支えているのが、牧丘病院と、国内初の公設民営有床診療所である「市立産婦人科医院」です。
古屋先生は長年にわたり地域医療や在宅医療に尽力されており、2024年に医療と移動を掛け合わせた「医療MaaS車両(移動診療車)」を導入されました。
今回は、この車両を活用したオンライン診療の推進や、在宅医療体制の充実、そして地域住民との接点づくりのリアルな現場を拝見しました。

ハイエースを改造した「走る診察室」
導入された移動診療車は、山梨市が購入し、牧丘病院が管理・運用を委託されているものです。
ベースはトヨタのハイエース。車内後部にはベッドが設置され、座った状態でも寝た状態でも診療を受けられる工夫が施されています。

車内には大型モニターがあり、オンラインで繋いだ医師の顔が大きく映し出されるため、患者さんも安心感を持てます。
通信にはモバイルルーターを使用し、カメラは360度見渡せる「Insta360」を採用。手持ちで患部をズームインしたり、Zoomから遠隔操作したりと機能とコストパフォーマンスに優れたデバイスです。
主な診療機器として、血圧や脈拍を測るバイタル測定機器一式、ポータブル超音波(エコー)、心電図機能付きの血圧計などが搭載されており、まさに「走る診察室」。
被災地への物資輸送に活用された実績もある、頼もしい車両です。
現場レポート①:公民館での健康相談と、美味しいカレー
視察当日は、地域公民館で開催された市主催の相談会にこの車両が登場していました。
会場には生活相談、リハビリ相談、健康相談などのために近隣の方々が訪れており、その流れで移動診療車に乗り込み、医師とのビデオ通話によるオンライン診療を体験されていました。
このような場に車両を出向かせることは、住民との信頼関係を築くだけでなく、「本格的な医療が必要になる前の段階で、支援が必要な方を拾い上げる」という大きな意義があります。行政にとっても、普段は医療機関と接点のない方々の状況を把握できる素晴らしい取り組みだと感じました。

また会場にはキッチンカーも来ており、管理栄養士さんと連携した食支援も行われていました。
いただいたカレー、本当においしかったなぁ。
現場レポート②:人が集まる場所へ出向く医療
午後は、山梨市駅近くにあるNPO法人が運営するコミュニティスペースへ。ここにも移動診療車が出動しました。
会場には20名以上の高齢者が集まり、おしゃべりやレクリエーション、音楽を楽しんでおり、その賑やかな交流の場でオンライン診療の体験が行われていました。
さらに、移動販売車も同席して冷蔵食品や生活日用品を販売しており、「医療」と「生活の足(買い物)」が一体化している様子が印象的でした。
100名超を支える在宅医療と、コスパ抜群のIT活用
牧丘病院は数名の医師で運営されていますが、古屋先生ご自身だけでも100名を超える在宅患者さんを担当されています。
夜間や休日も含めたチーム制での対応はもちろん、いざという時に入院できる「バックベッド(後方支援病床)」の強みを活かし、在宅から入院まで切れ目のないシームレスな医療を提供されています。院内にサポートセンターを設けているのも心強いポイントです。
また、オンライン診療の基本モデルは、看護師が患者さんのそばにいて医師と繋ぐ「D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)」。 ビデオ通話にはZoomを使用し、患者さんの情報共有には医療・介護専用SNS「メディカルケアステーション(MCS)」を導入しています。患者さんやご家族とのコミュニケーション、スタッフ間の申し送りだけでなく、日頃から防災訓練を行い、災害時の安否確認や連絡手段としても活用されているとのことです。

高額な専用システムありきではなく、現場にあるツールを柔軟かつ「コスパ良く」活用されている点には、大いに感心させられました。
視察を通じた学びと所感
今回の視察を通じて、以下の多くの学びを得ました。
- 「動く広報室」としての価値: 移動診療車は単なる診療の場にとどまらず、住民への医療啓発や広報の場として非常に有効。
- 潜在的なニーズの発見: 健康相談や生活相談と組み合わせることで、支援が必要な住民を早期に拾い上げることができる。
- 地域包括ケアの底上げ: 在宅診療とオンライン診療の掛け合わせが、医療の質を飛躍的に高める。
- 多職種・公民連携の力: 医療者、行政、民間事業者がスクラムを組むことで、医療の枠を超えた「総合的な生活支援」が可能になる。
地域全体の訪問診療・オンライン診療を力強く支えているのは、間違いなく古屋先生のリーダーシップと、牧丘病院の強固なバックアップ体制です。
最後になりますが、古屋先生からは特製のトートバッグとお手拭きまでいただいてしまいました。
本当にありがとうございました!

