三重県鳥羽市でのオンライン診療視察報告書
1. 視察の背景
三重県鳥羽市は人口約16,250人、高齢化率41%の自治体であり、4つの有人離島を抱えています。
市内には病院も保健所も存在せず、診療所のみで医療が支えられているという非常に脆弱な医療体制となっています。
鳥羽市には本土側に4か所、離島に4か所、計8か所の診療所がありますが、人口減少と高齢化の進行に伴い、診療所の利用患者数は減少の一途をたどっています。
特に神島では、15年前に400人以上いた人口が現在は200人台にまで減少し、約半減という厳しい状況にあります。
このような中で、オンライン診療や医療MaaSを含む新たな取り組みが地域医療の維持に活用されていることから、現地を視察いたしました。
2. 神島診療所の現状
診療体制
- 所長:小泉 圭吾 先生(週4日、本土から船で通勤)
- 看護師(島内在住)、事務スタッフが勤務
- 診療科:内科中心のプライマリーケア
- 検査機能:レントゲンあり、内視鏡・CTなし
- 薬局はなく、院内処方で対応
1日あたり十数人の外来患者が来院しており、看護師の役割が極めて大きいとされています。

夜間・診療日外対応
- 急変時は、まず島内の看護師が患者宅へ訪問
- 看護師が対応できない場合は事務職員が訪問し、医師とオンラインで接続
- 搬送は定期船で行うが、時間外は漁師によるチャーター船を利用
D to P with Nの活用
- 小泉先生が船で通勤できない荒天時などは、D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)の形式で診療を継続
- 島内看護師が患者と接し、医師がオンラインで遠隔指示を行う
3. 鳥羽市全体の取り組み:TRIMet構想
鳥羽市では、8か所の診療所を一つの大きな医療機関として捉えるTRIMet構想を進めています。
ポイント
- クラウド型電子カルテ(セコムOL:OWEL)を全診療所で導入し、どこからでも患者情報にアクセス可能。
- オンライン診療とカルテ共有により、本土と離島を相互にカバーする体制を構築。
- 一般的には本土が離島を支える形が想定されるが、鳥羽市では逆に離島の医師が本土を支える事例もある。
- 財源確保は国交省「スマートアイランド推進実証調査」による補助金を活用。
診療の基本原則
- 慢性疾患の安定患者を対象
- 必ず患者側に看護師やスタッフが同席するD to P with Nモデル
- コミュニケーションにはVITALOKを活用し、バイタル情報や遠隔超音波画像なども共有可能

4. 医療機器・デバイスの活用
- 耳・咽頭・歯科領域を観察できる補助デバイスを導入
- 看護師が超音波プローブを当て、医師が遠隔で画像を確認することも可能
- 現状は診療報酬上の算定はできないが、緊急時には有用な情報となる

また、メディカルケアステーションを用いて、医師・看護師・歯科医師・薬局・介護職・ケアマネジャーが情報共有を行い、地域包括ケアの推進につなげています。
5. 医療MaaS(モビリティ活用)
鳥羽市では、トヨタのハイエースを改造したモバイルクリニック車両を導入しています。

特徴
- 車内にオンライン診療スペースと患者移送用の座席を設置
- 自宅訪問でのオンライン診療、診療所までの移送、集会所での診療などマルチに運用
- 会計は現地で現金・PayPay等で処理可能
- 届出上は巡回診療として運用
利点
- 本土側診療所の診療時間が短く、来院困難な患者に医療を届けられる
- 医療と交通問題を同時に解決するアプローチ
- 移動支援により診療所利用の効率化・将来的な集約化を見据えている


6. 課題と展望
- 人材確保
- 信頼できる看護師(General Nurse)の確保が最大の課題
- NP(診療看護師)が活躍できるポテンシャルあり
- 財政的持続性
- 車両や人員コストに見合う診療報酬がなく、補助金依存の現状
- 法制度の制約
- 現行制度では一人の医師が同時刻に複数診療所で診療不可
- 制度改正が行われれば、診療時間延長・医療アクセス改善に寄与
- 総合的資源配分の必要性
- 人・物・金が集まりにくいへき地において、オンライン診療とMaaSは必須要素
7. 視察を通じた学びと所感
今回の視察で、鳥羽市はオンライン診療、クラウド型カルテ、MaaSを組み合わせ、
地域全体を一つのバーチャル病院とみなす発想で医療を維持していることを確認しました。
- 医療提供の中心は医師だけではなく、看護師・地域職員・薬局・介護職など多職種連携であること
- オンライン診療と移動支援を組み合わせる工夫により、患者の利便性と医療継続性を確保していること
- 制度・財政・人材面の課題は多いものの、新しい地域医療モデルの可能性を示す事例であること
視察後は鳥羽市の職員の皆様、小泉先生と意見交換し、医療MaaS車両の現物を拝見することもできました。
今回のご縁から、第3回長野県オンライン診療研究会に小泉先生をお招きできることにもつながりました。
余談ながら、滞在中には新鮮な海の幸を堪能し、島を一周することで地域の厳しさと魅力の双方を肌で感じることができました。
